多飲多尿について3回目は、早く気づく事で症状別にどんな治療をおこなうのか、または、病気を知る事でなぜ早く気づかなければならないのかをイメージできるようににお伝えします。
健康診断から病気の早期診断が必要な事と次に「何をするか」、が大事になってきます。
全ての病気が健康診断を受けていれば分かる訳ではないのですが、前回まで書いている多飲多尿については、日頃と違う変化なので、より気をつける事で発見が早まります。
それでは、それぞれの病気について説明します。
腎不全とは、体の中でフィルターの働きをしている腎臓が突然またはゆっくりと働かなくなる病気です。腎臓が働かなくなれば、体から悪い物質を尿として排泄できなくなり、最悪の場合には尿毒症をおこして亡くなってしまう病気です。
フィルターという複雑な構造状、一度壊れると元に戻らないので、病気がどんどん進行すると治らなくなります。血液検査でも、腎臓の75%壊れないと発見できません。75%とは、人も動物も腎臓が右と左にあるので、片方の腎臓が働いていなくても血液検査では正常値になります。残りの腎臓の更に半分壊れたのが75%になります。
腎臓を壊す原因としては、様々ありますが日々の生活で気をつける事ができるのは、食事による高タンパク食であったり、高塩分食です。高タンパク食とは、お肉ばかり食べていると食べて分解吸収された過剰なタンパク質が、アンモニアの形になり腎臓に障害を与えたり、チーズやウインナーなど塩分の高い物では、高血圧になり腎臓に障害を与える(最近では人程血圧上昇に関係ないとも言われてますが)ことあり、年齢が高くなる事で高タンパク、高塩分食は血液検査が正常であっても避けるようにしてください。
では治療としては、早い段階で症状もでてない場合には、食事療法や内服薬の投与でコントロールしていきますが、ぐったり、嘔吐、下痢などの症状で腎不全が発見された場合には、点滴治療をおこなわないと命に関わってきます。状態により入院も必要になります。
腎不全でぐったりしてきた子達のそれまでの経過でよく伺うのが、
「昨日まではご飯食べてた。」
「先週でかけたときには元気そうだった」
と最近まで異常がなかった様子を聞くのですが、
こちらから次の質問をすると当てはまることがでてきます。
○よくお水を飲んでませんか? または、器がいつもは空にならないのに空になっていませんでしたか?
○体重が以前より減っていますが、減量してましたか? または、同じ量で食べているのに体重が減っていませんか?
○トイレの砂を交換するときに重さの変化に気づきませんでしたか?
○口臭の変化にきづきませんでしたか?
そうすると、「半年前から増えていたような?」
「暑いから飲んでると思っていた」など、
そういえばといった感じで気づいてはいたけど確信には至らなかった場合があります。
腎臓は、壊れると残りの部分が120%や150%と無理をして仕事をしていると思ってください。
そのために、脱水状態になると急激に腎臓への血流が減り悪化します。
水を飲むからということで、制限してしまうと、脱水を加速させてしまいます。
制限しなくても、猫では自分が喉が渇いている事に気づきにくいので、水入れを各部屋に置いておきましょう。
脱水は、口の中の乾きから、皮膚を引っ張って戻る時間などで評価します。
糖尿病とは、尿中に糖がでるのですが、犬と猫でタイプが異なる事があります。
症状としては、多飲多尿に食べているのに痩せるのは共通症状ですが、犬では白内障、猫では歩き方がおかしくなることがあります。犬ではインスリンが生涯必要になりますが、猫では肥満を改善したり、膵炎が治ったりと他の病気が治る事でインスリンが必要じゃなくなるケースがあり、治療目標も異なってきます。
ただ、治療をおこなわないとケトアシドーシス(血糖値を高めるホルモンが過剰にでて、足りない分を肝臓からも糖を作り出し、更にインスリンがより効かないようになり、脂肪からケトン体を作りだし体が酸性になりどうしようもなく死に近づく状態になること)になってしまいます。早めの処置により、ケトアシドーシスにならないようにしましょう。
クッシング症候群は、副腎皮質機能亢進症とも言います。体の中で、過剰にステロイドを作ってしまう為に、多飲多尿プラス食欲増進と筋肉が弱くなったり、肝臓が副腎ホルモン(ステロイド)の影響により肥大するためにお腹が大きくなります。更に、毛が抜けたり皮膚が石灰化と言って固くなり出血しやすい状態になったり、皮膚自体が薄くなり剥がれたり、裂けたりします。いずれも病気になった期間が長い程色々症状がでてきたり、合併症がでて病気がコントロールできにくくなります。早期発見で合併症がでる前に内服での治療をおこないましょう。ただし、この内服薬は、体内でステロイドを合成する事を抑える薬(阻害剤)の為に、原因の副腎でステロイドをつくりなさいと指示をだす下垂体の異常に関しては、治療ができないので最終的には神経症状や合併症がでてくることになります。
甲状腺機能亢進症は、猫でよく見られる病気です。原因の一つにプルトップ式缶詰の保存期間中に容器から食物に溶け出す化学物質(とくにビスフェノールA)などが、甲状腺腫誘発因子といわれています。
病気の特徴としては、甲状腺ホルモンが代謝をよくする働きがあるため、心拍数の増加、高血圧、体重減少、落ち着きがなくなるなど様々な症状がでます。更に、症状が進むと合併症で腎不全や心不全を発症します。
脱水も著しくなり、毛艶も悪くなります。
治療は、甲状腺ホルモンが作られるのを邪魔する(阻害)する薬を与えます。初期であれば、内服だけでも呼吸の落ち着きや異常興奮が少なくなったり、血液検査での肝臓の酵素減少などが早い段階でみられます。ただ、内服を止めると甲状腺ホルモンが再び過剰に作られて再発するので内服は続けて行きます。ただし、合併症がでてくると内服だけでは、体調をコントロールできなくなるので早期の診断、治療が大切になります。
その他、子宮蓄膿症は、ヒート(生理)後の2ヶ月付近で多飲多尿と元気食欲がなくなり、子宮の中に膿みがたまるので、お腹も張ってくる場合もあります。そのまま放置して病気が進むと子宮内に溜まった膿みが子宮が破裂することにより腹膜炎をおこし亡くなります。高齢化していくとヒート(生理)もきてるかどうか分かりにくくなり発見しにくくなります。
治療としては、手術による卵巣子宮摘出手術と術後にもDIC(体のいろんな所で血栓ができてつまる状態)がおこる可能性があるので、数日入院が必要になります。
対策としては、若い頃に避妊手術を実施して、乳腺腫瘍の発生率も抑える事をおすすめします。しかし、避妊手術に抵抗がある方には、ヒート後に抗生剤を内服をすすめていますが、先に書いたようにいつ来たかが分からない事がでてきますので、出血だけで判断するのではなく、陰部の大きさも確認する必要があります。陰部の大きさがずっと大きい場合には、卵胞嚢腫と言って排卵ができない状態でいることもあります。この状態も子宮蓄膿症のリスクも高まりますし、ホルモン性の脱毛もおこるので、この状態も異常と考えて治療が必要です。
悪性腫瘍(リンパ腫、扁平上皮癌、アポクリン腺癌など)で多飲多尿が見られる場合では、(血液検査で悪性腫瘍が発見できる訳ではありませんが、)高カルシウム血症も一緒にみられる事があります。高カルシウム血症での多飲多尿は、腎臓内の石灰化がすすんでの事なので、病気としてはかなりすすんでいる可能性もあり、腫瘍自体も他への転移を考えるため予後については、かなり厳しくなる事が予想されます。
悪性腫瘍以外で高カルシウム血症がみられる疾患は、上皮小体機能亢進症、慢性腎不全、ビタミンD過剰症があります。
以上、簡単にと思いながら長くなってしまいました。
今年の診察は12月28日の午前までです。来年は、1月4日から通常どおり診察いたします。